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空家問題だけではない、お墓の承継問題

▮空家問題は、現在の所有者が誰であるかが、登記上からも、分からないので、現状空き家になっている建物自身の老朽化及びそれによる安全性・住人不在に乗じた不法侵入や犯罪などの危険性や、ごみなど環境問題・固定資産税の徴収・相続人の確定が出来ない等、全国的に多くの問題が露呈しています。


しかし、このような所有者不明問題は、こればかりではありません。


▮昨今の相続事情においても、「森林」や「お墓」の所有者不明問題があります。

昔からよく言われているところの「遠くだから、お墓参りにも行けない」とか「維持費にもお金が掛かり、子孫に負担をかけたくない故に、お墓じまいをする」・「お墓は要らない」
「散骨」・「樹木葬」と言われる昨今においては、墓の維持管理については、色々考えられているようです。
とは言え、それとは別に、世代が変わるたびに、承継手続きがなされていないので、2代目3代目が誰なのか分かりづらくなっています。


▮これには、承継時の手続き自体の煩雑さもひとつ手伝っています。

「祭祀財産の承継は、本来、口頭だけでもよく、それが無い時は、その地の慣習に従う」というのが、基本です。※1

「口頭でも良い」「慣習に従う」とは、現実にも、その家の長男が引き継ぐものとしての慣習から、親からの生前の意向をもってしても、長男が引き継いでいます。
その長男がいない時には、配偶者やその子供、又、彼らが居なければ、身内ないでの話し合いがなされることです。その地方としても、それが昔から、文化として承継されています。
明治憲法下においても、家父長制は継続されていました。
そして(現代においては)、それ以上もめる時は家庭裁判所に委ねるのです。


・墓や仏壇のような祭祀財産も上述の如く、本来が、家の後継ぎ者が墓の継承もしました。
それは当然の慣習でもあり、何ら問題もない事でした。その時、承継は、書面でも、口頭でもするものではなく、当然かつ自然なものでした。
お金や不動産などの財産相続はするが、祭祀財産は受け継がないと言う様な事はないのです。一緒のものだからです。


それが、学術上でも、「承継」そのものに関して言えば、祭祀財産の承継は、相続財産承継と同じ範疇の項目であったものを、分けてしまったところに問題が出て来たと言えます。
家督財産を引き継ぐと言う事は、財産も祭祀財産も、名誉など社会的地位もすべて引き継ぐことです。


そして、絶やさない。末代まで。それは崇高な事で、責任重大であるので、家督を引き継ぐものは、当然それを維持するための財産も引き継いで、それらを維持継続のためにも使う権利義務も持っています。
そうでなければ、ただ引き継ぐだけでも出来ません。それ程に、「家督を引き継ぐ」という事は重大な事なのです。


▮今の法律の様に、全ての相続人が同じ分配にあずかると言う事は出来ないのです。

家督を維持継続するための義務と権限がある以上、それなりの承継財産も引き継ぐ権利があるのです。
民法879条があるにもかかわらず、自治体によっては、両者は違うので、相続人全員の署名押印が必要と言うような手続きにしていました。
これでは、遺産分割協議の相続があっても、なくても、相続後において、全員が快く賛同するとは限りません。賛同しなければ、いつまでも、承継は行われないか、相続における財産分割に何らかの異議を唱えて、賛同するからある種の利益を要求すると言うのが関の山です。
既に遺産分割・財産相続手続きが、終わったにもかかわらず、問題が再発しています。
承継がなされないと、石材屋も承継許可が無い限り、文字彫りの追加やお墓の修理工事などはしない・できないと言います。


▮これでは、承継は、怠ってしまうのは当然です。

・お墓自体はお金を出して作るのですから、所有権は建てた人にあります。しかし、墓を建てる場所は、大概は、借りている(その場所をずっと借りられると言う、永代使用権)のです。
そこで、承継者が変わると、その届が必要となります。しかし、この届の際に、手続き上、相続人全員の同意や判が必要と言う様な一律的な手続きがあるのです。これでは、明らかに、その煩雑性と民法897条の意向にも関わらす、承継が速やかに行われなくなります。
後日、親族間での問題が起きた時のためにもという意向はあったのですが。


▮現状・・・制度の不備の改善化

昨今、(自治体にもよりますが)自治体でも、被相続人の子供・身内であることが証明されれば、誓約書・身分証明書・戸籍謄本だけで承継できるように変わってきています。

 誓約書=承継の同意による後日のトラブルに関しては異議を唱えない事に同意する。
 相続者である事が分かるための戸籍謄本
 身分証明書=運転免許証や住民票

これだけです。これこそ簡単な本来の姿の承継の制度です。

お寺などが所有する墓地もありますが、その時は、名義変更には、名義変更料が取られることもありうるでしょう。



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※1のお墓には、民法879条や「墓地、埋葬等に関する法律(略して「慕埋法」と言う)=墓の管理・使用の許可等の取り決めであって、承継についてではない」(昭和23年5月31日法律第48号)などがあります。

民法897条 (祭祀に関する権利の承継)
1項「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべきものがある時は、その者が承継する」
2項「前項本文の場合において慣習が明らかでない時は、同行の権利を承継すべきものは、家庭裁判所が定める」






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行政書士 井原法務事務所
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