この本は、ドイツ人歴史学者であるベルンハイムという人がその序に置いて述べているように、「歴史研究の補助手段を提供するものである」と述べています所の歴史学研究方法論です。
そして、「学問に従事する青年諸子を裨益(ひえき※)するとこあれ」と最後で締めくくっているように、歴史研究する学徒を対象にしたテキストとして書かれているわけですが、「史学入門」と言う割には、哲学的な説明が主体的に第一章として始まっています。その意味でも、入門と言えるようなものではないと思います。
最も1920年の出版ものなので、日本では大正2年当時ですから、青年が当時の日本の大学生対象としては、律儀で実直な洋書として映ったに違いないでしょう。と言って今時の学生がそうは思わないと言うのではありません。
昔の学生と今の学生では、学問が学びやすさで比べると全く180度違うほどの世界だからです。それほどに学習出来る環境が整いすぎているという事です。
今は、史学研究入門と言っても、沢山の本が出されており、内容的には入門の入門の更に入門とでもいえるほどに、手取り足取りまで他の分野でもありますから、書籍の少ない当時とは題名は同じでも、内容が違うのは当然です。
ましてや彼のこれ以前の大著として、「史学研究の方法学」と言うのがあるそうですから、そこからの初学者向けの内容として考えを適時抽出しても理論を簡単な説明でなされるにはおられない事だったでしょう。それは第1章において深々と展開されているので、もし読み進めるのに飽きそうだと思うなら、第3章くらいから読み始めるのがいいでしょう。つまり、第1章はいわば、歴史哲学論と言うような説明なのですから。
初学者にとってどのような科学領域においても、最初に学ぶにあたって、哲学論を展開されるとそこで中断したくなるものでしょうから。
第1章第2章を総論とするなら、それ以降は各論とでもいえましょうか。史学の各分野の研究について述べています。
この訳者の一人として緒言を述べている坂口昴と言う先生も、大正当時の歴史学の大家です。当時の欧米で広く認められた本とありますから、日本でも史学研究の必読書の1つにはなっているのでしょう。
この中で一つ大事な言葉をあげましょうか。
「歴史は、いわゆる精神科学に属する」
と述べています。歴史と言えば人の歴史でありますから、当然人の精神論をいつでも提示します。すべての社会科学もその意味では同じでしょうが、どの科学も歴史の上に成り立っていることからすれば歴史学の方が精神科学としては基本的な礎を築いているでしょう。
※「歴史とは何ぞや」ベルンハイム著(岩波文庫)
※裨益=物事の助けとなる事、役に立つ事。
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