遺言書(主に自筆遺言書)には、その形式や内容により、有効無効の是非が問われます。
●書店において、遺言書の書き方の本などは多く出回っていますので、それらを参考にすれば、最低限のチェックを行い、形式は整うと思われます。
ただ、判例を紐解けば、書店等に有る本に出てくるようなチェックだけでは、思いもしないような結果をまねくことがある事を知ります。
そもそも主に自筆遺言の内容=分割の仕方による揉め事から、裁判になっている事が多いことは言を俟たちません。
しかし、「分割の仕方が適正でも間違いでも、それが有効か無効かは、相続人の訴えの有無しかない」と言う極当然な言い方になりますか。
では、遺言が無効となる場合や有効となる場合の違いの多くは何処にあるかと言う事です。
①遺言能力の有無・・・主に健康状態、意思能力
②基本形式の不備・・・日付、印鑑、署名、代理、
③内容の不備・・・・・遺産内容の不明・間違い、遺産分割の仕方、加除訂正、偽造変造、
④破棄、隠匿
⑤他・・・・・・・・・遺留分の侵害、寄与分がない、生前贈与等特別受益、
などにあります。
①遺言能力と言えば、遺言書作成当時における、遺言者の能力が正常であるかどうかが一番問題になりやすいのです。当時に認知症であったとか、頭は明晰であっても、代筆であったり、病気であったがその後回復した時に作った等を理由に相続人から無効請求されることがあります。
②形式の不備では、日付けの間違いや吉日などの不確定日、印鑑の間違いや押し方の不鮮明・押印がない署名だけ・印鑑と認められない花押・母印指印、また、遺言内容自体を第3者に委託するなど
③内容の不備については、全ての列記がない等遺産の内容不明、財産の名称数量金額等のまちがい、分割の不公平・未分化・不満等の分割の仕方、完成している遺言書に遺言者自身による加除訂正の仕方の間違い、筆記具の間違い、また、相続人による加除訂正などの偽造変造。
④破棄隠匿は、文字の如く、内容に不満のあまり破ってしまうとか、その存在を知りつつ、無いことにして隠し、遺言者の意思に背く。それらは当然、他の相続人の利益も侵害する。
⑤遺留分・生前贈与・寄与分なども勘案していない。
等々がありますが、裁判所(裁判官)によっても、有効無効の判断に違いが出てきます。
●また、公正証書遺言においても形式・内容の不備などで、裁判における有効無効の例は後を絶たないと言います。
それにより被った損害は、公正証書の時は、国家賠償に至ります。 そして、公正遺言書で、遺言作成当時の遺言者の遺言能力の有無についての無効性やまた逆に痴呆性であっても有効であったと言う判決もあります。
遺言書は早く作りましょう
●自筆遺言でも公正証書遺言でも裁判例に多いのが、80歳、90歳など遺言作成時の年齢がとても高すぎると言う事です。その年代であれば、多くの人が認知症をはじめとするいろいろな病気を持っているものです。そのような時期に作成するので問題視されやすくなります。➡「遺言書は早く作りましょう」です。
面白い事例のひとつ
●旧民法下における自筆遺言書の形式要件の事例として「をや治郎兵衛遺言事件」※と言うよく知られた判例があります。旧民法においても、自筆遺言証書の形式要件は同じようなものです(旧民法1068条)
この「をや」は「親」の事で、氏名は「吉川治郎兵衛」と言います。
この事件では、この【「吉川」を書かず「をや」と書いてあるのは、旧民法における氏名自書の要件を欠くため無効である】と言う事件でした。
裁判では、上告は棄却されたのですが,「親」と言う表現の仕方や本人と確認できるようならこれでも問題ないとしているところが面白いです。つまり、何でもかんでも、マニュアル通りでなくても、筋の通った証明力があればいいと言う事です。
判例を読めば読むほど、多くの点で、注意点を知りやすくなるとも言えます。
其れも生活予防方法、予防法学です。
「人の振り見て我が振り直せ」でしょうか。
※「をや治郎兵衛遺言事件」:大判大 4.・7・3民録21輯(しゅう)1176頁
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