大学の法学部でも、最初の法学入門としての法学講義に使われるのは、「法学」とか「法学入門」「法学概論」と言う様なタイトルの所謂概説書になっているでしょう。※1
一般の人では、法学のスタートにおいて、憲法や民法から直接入る人もいるでしょう。
ここでは、法学のスタートとして用いられる入門書や概論書についてお話します。
一般に「法学」ばかりではなく、他の法律書においても、内容の構成は、六法書に沿った形になっています。
ですから、昔から、本の構成としては、条文に沿って解釈の仕方、文字の読み方理解の仕方に始まり、関係条文の説明、はたまた、判例を取り上げた実務の紹介を取り入れた形となっていました、
しかし、こと法学のスタートに当たっては、せいぜい、条文の解釈法論に主眼が置かれた説明や、2,3の設問を付ける体裁がほとんどでした。
それが普通のテキストスタイルでしたので、全体を俯瞰するにも同じ学習の仕方で進むと言うものです。
それは、もっと簡単に言えば、「法学」をサラッと読むだけにすぎない程度でもありました。それ故か、どれもこれも同じスタイルの説明だったので、この時点では、判例や時事,解釈方法論に関心を示すことなどなかったでしょう。
それでも十分という認識でしかないので、法学概論すら読まないで、直接憲法・民法と進んでいくことも有ります。
ただ、それでもいいわけですが、この時点で、基本法律用語、判例集、六法全書と小型六法書の違い、法律の成り立ちなどの本を、副教材的に使う事もしていれば、もっと、法学への関心・興味は違っていると言う事です、
そんな条文の解説、解釈方法、成り立ち、判例への係わり方などをあれもこれも取り込んでいる本が有ります。➋
➊先の概説構成を主眼としたスタイルの本と➋のスタイルとして著名な人の書いた本を紹介します。
➊スタイルとしては・・・・我妻栄「法学概論」法律学全集(有斐閣)
➋スタイルとしては・・・・田中英雄「実定法学入門」(東京大学出版会)
が有ります。
(両著共に古いのですが、あえて取り上げます。今は、司法試験などでよく出ている伊藤真先生の著が一番新しいかもしれません。しかし、我妻栄と聞くと、既に古いと思われるかもしれませんが、弟子の人が補訂などをずっと行っています。又、民法と言えば、この人の著作に一度でも必ず触れる必要があるほどの大家である事を知らねばなりません。)
今まで、➊のスタイルの本しか知らなかった人は、他に、判例の読み方、六法の読み方などをサブとして使っている人もいるでしょうが、多分にそれは、各専門に入ってからが多いのでしょう。
それに対し➋は、初めから、サブ教材も取り入れた形なので、「読むテキスト」と言うよりは「あれもこれも考えながら読む」と言うテキストと言えるような、華やかさが有ります。
所詮文系の学問は、「試験する」「作業」という行為が無いことが多いので、「書を読むに尽きる」形になりやすいのです。すると、そこには、飽きが来ることもあり、暗記学習になりやすいのです。
それに対して,➋は、設問・判例・資料などを盛り込むことで、作業も出て来ます。そこに関心興味は当然そそられましょうから、学習の仕方も違うはずです。
ただ、あれもこれも、初めから出てくるので、進み方に遅れが出やすくも有るでしょう。
人によっては、それを嫌う人もいるいるかもしれません。
何故なら、➋には、憲法・民法・商法・刑法など基本六法に始まり、訴訟関係などの概論的説明を六法に沿った形での説明はありませんから。
これは、成文法国家だから当然➊のような解説本形式になるとも言えます。
そして、もう一つ言えば、ここ日本での法学を学ぶ以上は、いずれ外国法も学ぶとしても、法学入門の段階としては、初めから、法哲学的な本は、あまり薦められたものではありません。
例えば、ドイツのラートブルフ著「法学入門」(ラートブルフ著作集)と言うのはとても難しく素晴らしい本だと言われます。しかし、此の本は、ドイツの諸法を基盤とするも、内容的には、法哲学と、法史学を基本にしたような説明に終始しているので、比較法研究の段階や法哲学に関心のある人でしか必要ないと言ってもいい位です。
初めから、法哲学や法史学、法社会学にのめり込んでいると、実務から離れます。それは、社会に出ても理屈にとらわれるような考え方になると言えない事もないでしょう。
いつかは社会で生かせる学問を学ぶなら、実学に沿った学問を得るのが、普通でしょうし、生きる為の学問ととらえるでしょう。
話は戻りますが、いずれ、憲法にしろ、民法にしろ、概説論を学習するだけでは、暗記学習に終わりやすいですし、どれにも、判例が出て来て、共に進まないとならないのですから、その点で言えば、➋は、「法学」学習の段階から慣れ親しめるとも言えます。
つまり、よく言われるごとく「法は条文もとても大切であるが、法律的なものの考え方を学ぶことが大切である」と言う事です。そんなスタイルが➋の構成本にみられます。
そして、この本は、司法制度・法律家・法律教育等にまで説明が及んでいる事からしても、これから法学を専門として学ぶ人用の本であって、一般の人の教養としての本ではありえない気がします。それに、これは西洋におけるケースメソットスタイルです。
その意味では、今後大学ばかりではありませんが、法学部では、初めからこのスタイルの本をテキストとして使うのが理想であると思います。
判例法国家としての英米の法学教育が、ケースメソット式であるが故に、暗記学習では初めから成り立たない事においても、日本の法学教育の方向性もこれにあるのは、以前からも言われ続けている通りです。
大学では、3年4年時に演習が有りますが、(今はどうか知りませんが)、この演習がケースメソットに近いでしょうか。しかし、もっと言えば、1年次からそうであってもいいと思われます。
その為にも、4年制大学では時間が少なすぎます。英米の様な、4年他学部を卒業してから法学部=ロースクール2,3年に行くのを日本も取り入れるのは必要です。
その日本版として、弁護士になるには、法科大学院の入学・卒業が義務付けられました。
しかし、これは、法曹家の養成であって、研究者の養成ではないでしょう。
兎にも角にも、➋のタイプの本は、本気で法学を学びたいと願う人が最初に取り入れるなら、法学にのめり込み易い本と言えます。
但し、諄いようですが、逆に言えば、詳しすぎる脚注や設問、判例など、文字のポイントも抑えた構成です。
一言で言えば、あれもこれも盛り込んであるが故、反って「1ページ内に細かい文字が多すぎる」ので、読みにくいのです。
各記事の組み方(位置)に余裕を持った体裁であればと感じます。
全くの初心者がこの本を手に取ると、「わっ?」と思う人も必ずいるのではないでしょうか。
今現在は三版まで出ているようですが、内容的には、古いと言われます。
初心者は、資料・設問・脚注書きなどは、飛ばして本文を読み通し、その後、それらに目を通す方がよいでしょう。
(二つのタイプに分けたのは、あくまで私論であり、こうなっていると言うものではありません。)
※1法学の概論を教える際に当たり、「法学通論」と言う名称をはじめに用いたのは東京帝大のj穂積陳重であるとあります。(「続法曹夜話」より)
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