この本は、心理学の学習に際しては必読とされる一つで、これの他にもよく似た本に「アベロンの野生児」というものが有ります。どちらも、動物に育てられ人に発見されてから、人間の世界で暮らす間の記録です。
1915年ごろのインドで「カマラとアマラ」となずけられた二人の少女姉妹が狼の住む洞窟で発見されました。二人は孤児院へ連れてこられましたが、アマラはほどなくして死にます。故にカマラについての一生涯の物語を、140頁あまりの小冊子として書かれたものです。
心理学の中での、人間の学習能力と環境適応能力の研究に一級の報告書となっているわけです。
二人とも、狼と共に生きてきたので、人間の世界で育てられていっても、既に、狼の子供と同じ生き方になってしまい、オオカミと同じ行動を当分示しました。
孤児院で人間と同じ生活行動をするようになり、やがて、幾多の人間的な行動に変わっていきます。
知能的には、子供であるが、言葉も覚え、時間を経るに従い、多くの言葉を話せるようにもなります。
しかし、1929年尿毒症で死にます。1912年ごろの誕生と推測されるもですが、そこからしても、わずか、17年位の生涯でありました。
「VI 狼の生活から人間の生活へ」の初めに、次のような言葉が書いてあります
「一つのものから離れることは、べつなものになることである」
私たちは、人間文化の中で生きているので、それを当然として受け入れていますが、ひとつ間違って、彼女たちの様に、人間社会ではない世界で生きるとすれば、人間社会に復帰した時に、どのように人間文化を感じるのかは、彼女たちが長生きしていませんのでわかりません。それを推測しても、恐怖です。その時、「べつのものになる」ことは、逆のケースを考えて言えば、「人間が人間社会から離れて、狼の社会で生きていくことができる」という事も言いかえれる気がしますが、それは、できないでしょう・できるわけないでしょう。
この書は、人間社会に生きているという事と、そうではない自然の社会に生きる事の違いを、1972年当時グアム島で発見された元日本兵の横井正一さんのことも交え、あとがきでは、次のように述べています。
「彼女は狼と人間の両面をまざまざと表したまま生きつづけ、人間が文化から絶縁されたときのおそろしさと同時に、どんなばあいにも、けっして失われることのない人間のポテンシアリテイーについて、永遠に私たちに語りかける」
と結んでいます。
気軽に読める本ですので、図書館でも見つけたら読んでみることをお勧めします。世間にはこんなことが実際にあるのだなあと思えば、TV番組で未確認生物特集などをやっていることが、まんざら創作ものでもないと思うでしょう。
世の中は知らないことだらけとも考える事でしょう。
宇宙開発時代だと言っても、分からないことばかりで進んでいきます。
※「狼にそだてられた子」ゲゼル著(家政教育社)
※この話は、どのようにこの子が狼の世界に入ってしまったのかは、あまり想像したくはないことです。なぜならば、もし何かの事情で両親が森に捨てたとか、それとも、誰かに遺棄されたのか、はたまた、鼻から狼に連れ去られたのか、そのくらいの推測しかできませんが、恐ろしい事としか言えません。
この世には、人の親でも、我が子を世間から隔離してしまう話は時としてあります。
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