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「二十世紀のパリ」ジュールベルヌ著

「八十日間世界一周」や「地底旅行」、「海底2万マイル」で有名なジュールベルヌに、このような題名の本があることは知りませんでした。
書店で、中身も読まずに買いましたが、それほどにジュールベルヌの本であればどんな本であろうとも、裏切ることはないだろうという初めから安っぽい安堵感があるからにほかなりません。


本冊は、7章で構成されており、自伝をもとにしているとも書いてありますが、20世紀のパリを舞台に生きて居る主人公ミッシェルの行動を描いています。
ただ、ジュールベルヌが、「海底二万マイル」や「タイムトンネル」の様に、未来に登場するであろうとの想像力からして、機械もの好きであることからか、第1章「教育金融会社」・第2章「パリ市街の概観」でこの物語の背景を長々と説明しています。その背景としての街並みを、蒸気機関がどうのこうの・建物がどうのこうの・電灯がどうのこうのと、物理化学的な機械の動力原理の説明が述べられている下りは、なんの面白くもない部分です。
読者への配慮として、小説の背景を想定させるべく書いているのでしょうが、そのような理化学的に詳細なことは、一般読者には興味のない所です。
それでは、まるで、舞台の戯曲を説明するようなもので、煩わしいとしか言えません。
ですから、最初を読み出し始めると、嫌気がさしてきます。
どのような小説でも、読者に背景を想像させるべくしますが、あまり、建築的・機械的・光学的な説明を詳細に描くのは、不要であるし、却って、うっとうしいだけになります。


さて、この本を紹介することで、興味を持たれる方もみえるでしょう。
その際には、ひとつだけ申し上げます。
ジュールベルヌという人は、預言者的才能を持った人でありますが、やはり、預言者なのではなく、科学などにすぐ入れた知識と情報と「創造」を見られる数少ない人だったと言う感じがするだろうという事です。
その為にも、すでにご存じの作品をもう一度読み直して、これと見比べてみてみるのも彼の物の感じ方の別の視点を見るかもしれません。

時代の先を行く人と言うのは、一般人とはやはり物の見方が違うのでしょうね。


ところで、私の好きな小説に、アメリカの小説家アンブローズビアスと言う人がいます。彼については以前ご紹介していますが※2,この本と似て居て非なるものを感じさせます。
つまり、似ているというのは、ビアスの作品が、最後に急展開するところが不思議で面白いという点が、ジュールベルヌの小説の発想に似ているという事です。この作品も同じような展開を見せますが、全く違うものであることも、読み進めるなかで感じてきます。
現在とは違う時代を生きた小説家たちが、未来を思い描いて書き綴った作品に、いつかきっとこんな世界が来ると信じて疑わなかった人の一端を垣間見る事は、他人の心の中をのぞくと言う面白さと礼儀のなさを兼ねているのかもしれません。





※「二十世紀のパリ」ジュールベルヌ著(集英社)

2ビアス選集1~5

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