西洋法制史は、日本法制史に対比する学問としても、世界中を対象にしているわけですが、そこは、もちろん文化・歴史のある国の法史と言った方が、分かりやすいでしょう。
只そのように申せば差別だと今時はそう申されてしまうのですが、そもそもが、現代法の比較自体は、大国を中心とした法を比較研究の対象にしているのですから当然西洋法史・東洋法史となります。
これは、自然科学史や理数学史を比較対照しているのではないので、そこには当然研究の対象には含まれない小国や経済的にも日本と肩を並べることのない国や、法体系を持たないような国は範疇ではないのはしかりです。
それゆえ、研究対象として出版される書籍類も、言語・歴史・文化などのこともあり、せいぜい、西洋法制史以外は、東洋法制史位になります。
しかも、学問としては、法の歴史である以上、古代法史が展開されてきた国の法史は当然の範疇として深く広く詳しく論説がなされています。
❐「学ぶ意義」について
ここで読者としては気になる事の1つとして「法制史を学ぶ意義はどこにあるのか」と言う点ではないでしょうか、
実際の所、実生活に出てくる法は、今の、どの国においても現代法ですから、法の歴史など不要ではないかと言う点は否めません
ですから、大学においても、十分に学習すると言う学生がどのくらいるかと言うのが正しいのではないでしょうか。それほどに実学(実生活に役立つ学問)から離れているのです。
これはどの学問においても、同じようなことが言えるでしょう。歴史は、実学にむすびつかないと。
率直に申せば、この学問の研究は、究極的にも法の哲学・思想を学ぶ点にあるでしょう。勿論すべての学問の行きつく先は、真理の研究に他なりませんから、余計に実学とは離れてしまい、学者になる人だけの学問としか思いつかなくなります。
そもそも文科系の学問は、芸術系を除けば、社会で役立つかと言えば、理工学系の学問と比べても、教育者や語学を生かした職業か一般職としての職場がメインとなるでしょう。
又言い方を変えれば、国をささえる職業としての位置づけとしては、そのような文科系は、二の次的な存在であることは、先の大戦においても、文科系学徒が理科系学徒よりも先に学徒動員された点からも伺えます。
と言って、文科系の学問を馬鹿にしているものではありません。
さて、本題に戻って、この本は、その西洋法制史研究者の書いたものですが、テキスト的な西洋法史の外観を見るものとは違います。
いわば副読本的な面もあるので、一般歴史書の中の法律面について読むと言った方がよいかもしれません。
幕末から明治にかけて、蘭学をはじめとして、西洋法はいかにかかわってきたかを論説しています。
鎖国日本がペリーをはじめとして開国を強制せられる中で、日本の近代化は大政奉還と共に変わっていきます。
江戸は蘭学をもとに西洋文化・経済・社会を学んでいましたが、其の頃には、蘭学は、世界を知る学問ではなく、英語を基準とした英語圏フランス語圏ドイツ語圏等の研究へと変遷していきます。大隈重信も蘭学より英学を学ぶことを説いています。明治に至る中で、幕府から明治政府へと移行しながら、多くの留学生を西洋に送っていきます。
江戸幕府も蒸気船を取得すべく西洋に乗り出します。西洋を知ることで、増々、近代化を図るべく、西欧の政治経済社会の調査研究が緊急課題となり、各国の「翻訳方」の人材の育成も、福沢諭吉や、中村万次郎らも名を連ねています。
当然留学生にとっては西欧の文化を脅威としてとらえ、日本の遅れを危機として受け入れるばかりでした。
これらは歴史の話としても同じことですが、西洋法を日本が取り入れるに際しては、他の文化同様に、その労苦を伴ったかは想像に難くありません。
中でも「万国公法」すなわち国際法の研究も急を要していました。諸外国と貿易を始めとした付き合いの中でも当然、日本の政治体制の在り方が制度を西欧に見習うと言うよりは真似る事に余念がなく、一刻も早く制度を敷くべく、人材養成が各所で行われていきます。現在の大学の始まりともなる「洋学所」「医学所」へつながっていきます。
「洋学」と言う言葉自身も、明治初期であり、福沢諭吉も洋学を学ぶに際し、洋学を「天真の学」と言っています。天真の学とは、福沢の創作言葉でしょうが、真理を学ぶべきところの実学であり、これを学ばざるしてなんとするとも言います。=「天然に胚胎し、物理を格致し,身世を営求するの業にして、真実妄細大備具せざるは無く、人として学ばざるの要務なれば之を天真の学と謂て可ならんか」
西洋法をすべからく取り入れることが、日本の近代化を急ぐ命令であったわけですが、その中に当然西洋に習った近代的司法制度を取り入れることになっていきます。
この書は、近代日本法の成立に西洋法の移入からの影響をどのような出来事があったかを述べています。
ここに、明治憲法の成立が、近代化の中で、フランス法・イギリス法・ドイツ法・アメリカ法のもたらしたものの大きさを見ることになるのです。
❐最後に
著者も言う如く「蘭学事始」に見習った「西洋法事始」と題しているように、歴史好きの読者にとっては、近代法として明治憲法の成立過程を垣間見るでしょう。
※「西洋法事始」水田義雄著(成文堂)初版昭和42年
※参考:「日本法制史」石井良助著
「ボアソナアド」大久保泰甫著(明治における明治日本法成立はこの人を知らねばならない)
「日本法律史話」滝川政次郎著、
「岩波講座現代法」14巻
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