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『死刑執行を当日告知』は是か非か

「死刑当日告知は憲法違反である」の裁判

「死刑執行を執行当日に告知する現在の運用は憲法違反である」として、死刑囚2人が国に訴えていた裁判で、先般(2025.3.17)大阪高裁は、1審判決(令和6年4月)を一部取り消し、大阪地裁に審理を差し戻す判決を言い渡しました。

 

各ニュース・報道から拾って整理してみます。

●囚人側の訴え内容=「当日告知に基づく死刑執行は、弁護士への接見や執行の不服を申し立てることができず、適正な手続きを保障した憲法に違反する。当日告知による執行を受け入れる義務がないとの確認と賠償を求める訴え」を起こす。

1審大阪地裁却下=「確定判決に変更を求めるもので不適当で訴えを退ける。執行方法については刑事裁判で争うべきである。」として却下。

2審大阪高裁審理差し戻し=「当日告知は不安や危険が現に存在している。仮に請求が認められても、前日までに執行を告知すれば問題はなく、死刑判決が違法となるわけではない。従う義務があるか確認するための審理は必要で、訴えは適法である。」と改めて審理を尽くすべきであると判断。慰謝料請求は却下。


現行刑訴法475条2項は…
「前項の命令は、判決確定の日から6か月以内にこれをしなければならない。~」
同476条は…
「法務大臣が死刑の執行を命じた時は、5日以内にその執行をしなければならない」

とあります。

アメリカでは、死刑は1か月以上前には執行予定告知が行われると言う。それに対しては日本は、1970年代までは1,2日前に告知されていたが、現在は、死刑執行当日(平日の朝1,2時間前に)に告知となっている。

この点は、日本も当日の方がもっと以前に告知することで日に日に恐怖感が増してくること等を思えば当日の方がいいのではないかと言う思案があってのことだとも言います。

かつて、死刑囚でも、制約はあったが外部との通信の自由や、面会の人数・時間などの自由があった。それが、厳しくなり、親族以外との面会や・通信など不可能になる(一部例外あり)。しかし、昭和38年の刑事施設法案通達集が発せられる。そこには、死刑囚の「信条の安定」を盛り込む処遇方針が打ちだされていました。

つまり、面会や信書交通の制限をなくして、心の安定を図る処遇改善がなされたという事です。ですから、今回の死刑囚の言う死刑執行当日宣告は、それに準じていない、ましてやそれは正当な手続きとは言えず憲法違反と訴えているのです。

人権と言う立場からすれば、たとえ凶悪犯としても、すべての人には基本的人権を認めるべきとの主張から、死刑廃止論を唱える人も多いのです。

下記書籍※1から引用すれば「刑死を待つ身と言えども、最後の瞬間まで人間としての自己実現を追求する権利を奪われてよいはずがない」と言う言葉がそのまま当てはまるでしょう。
大阪高裁の判決は、的を得ている判決と多くの人の賛同も得られるのではないでしょうか。
勿論被害者家族からすれば、いまさら何をと言う感情しかないでしょうが。
死刑囚の訴えも、賠償金は却下でも、大阪高裁と同じく正しい訴えとはいえるでしょう。

ただ、

いずれ執行日は来ると言えどもわかっているのが良いのか分からないほうが良いのか、ですが‥‥。心の準備としては事前告知の方がとも思いますが、過去には事前通知により自殺者が出たという例もあるそうです。やはり、国家の力による死刑がなされると言う感情の毎日の中で、尋常ではない毎日を生きて居るわけですから。

死刑廃止論と言うのは、人の命の重さは何事にも代えられない。たとえ犯人であっても人権がある。それゆえ、国家権力による死刑は、残虐でしかないという理屈になっていきます。

未だ死刑制度が残っている国は日本を含め2023年度では、世界で55か国という数字。その死刑の方法ですが、検索すると、サウジアラビアは、公開で斬首刑。台湾は銃殺刑と出てきます。

明らかに犯人と分かっている犯罪者(死刑受刑者)と、そうでない・わからない犯罪者(死刑受刑者)の違いをより鮮明確実にしないと、「免罪は必ず起きる」と言う言葉は、消えることはないのです。



※1「監獄の現在」日本評論社

※参考:「そして、死刑は執行された」会田士郎著(恒友出版)


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